「最上の、切なさを。」を求めて。『ヘブンバーンズレッド』でシネマティクスの原点に立ち返り、感情表現の限界に挑む

原案・メインシナリオのKey 麻枝 准さんが描き、Wright Flyer Studiosの作品のなかでも特にキャラクターの感情表現にこだわった『ヘブンバーンズレッド』(以下、『ヘブバン』)。

同タイトルが目指す「最上の、切なさを。」を最大限表現するために奔走したエピソードについて、2022年7月29日に配信された第四章前編から初めてモーションキャプチャーを採用した経緯も含め、シネマティックディレクターを務める竹俣に聞いてみました。

竹俣 太樹
Studio本部 Studio1部 Art2グループ Art3チーム リードシネマティクスアーティスト

映像プロダクションを経て、株式会社アトラスに転職。ペルソナチームにて『ペルソナ5』のシネマティクスやイベント演出、その他派生作品などを5年ほど担当する。その後は、株式会社Cygamesなどのスマホゲーム会社で経験を積み、2021年にWright Flyer Studiosへ。現在は『ヘブンバーンズレッド』のシネマティクスや映像演出を牽引。

最少手で史上最大限のドラマチック表現を

── 『ヘブバン』のシネマティクスのアニメーションは、元々手付けで進めていたと聞いています。竹俣さんがモーションキャプチャーを提案した経緯を教えてください。

竹俣 太樹(以下、竹俣)私がWright Flyer Studiosにジョインしたのは2021年の7月1日ですが、入社2日目には「モーションキャプチャーを使いましょう」と提案していました。
入社初日に『ヘブバン』のコンセプトや想いを伺い、Keyの麻枝 准さんが書かれたシナリオを読んで、「これはモーションキャプチャーを使うべき」と強く感じたんです。
モーションキャプチャーに関しては今までスタジオ側で参加したり、クライアント側で監修する立場だったり、様々な立ち位置で経験してきました。その経験から、『ヘブバン』は「最上の、切なさを。」というコピーを掲げている以上、モーションキャプチャーを使うべきと直感的に感じました。
極論、キャラクターの佇まいや息使いひとつで、様々な情景を想起させたり感情を表現することができます。そしてモーションキャプチャーなら、生のお芝居のクオリティがアウトプットにつながるため、手付けでは難しい、ムードや佇まいの微妙なニュアンスをキャッチアップすることができます。
また、同様の理由からバーチャルカメラも、過去に幾度か使ったことがあり、『へブバン』と相性が良いと感じたので提案しました。つまりはデータ上ではなく生モノの良さ、ライブ感が最大限活かせるなと。例えばハンドメイドの作品や、生のライブって何にも変え難い魅力があるじゃないですか。その瞬間しか生まれない刹那的でエモい魅力というか。それに近いと思います。
そういった考えをもとに「モーションキャプチャーはどうです?」とチームのメンバーに相談したところ、「今はローンチを控えているので、そこで新しい手法を取り入れるのは現実的ではなく、リスクが大きい」と言われまして、すぐの導入にはつながりませんでした。またその段階では、Wright Flyer Studiosにモーションキャプチャーを使った事例が少なく、『へブバン』でも想定していなかったため、ワークフローが確立されていなかったということもあります。

ですが、モーションキャプチャーが最適であると確信していた私は、タイミングを見計らい、改めて熱意を持って周囲に伝えてみることにしたんです。その結果、7月に追加された4章前編からはモーションキャプチャーを導入することになりました。上長も理解がある方々だったので、承認もスムーズでしたね。

── 承認を得てからは、竹俣さんがメインで進めていったのでしょうか?

竹俣私がメインではありますが、協力してくれた方々はたくさんいます。
事前準備の段階からチームメンバーと協力し、アクターさんがキャラクターと向き合える時間をしっかり取れるように心がけましたね。そのおかげで、通常なら本番の1ヶ月程前にお渡しするような資料を2ヶ月前にお渡しでき、しっかり準備期間を設けられました。

── 事前準備の段階から気合いの入り方がすごいですね。

竹俣私は、毎回新しくプロジェクトに参加するとき、自分なりの裏目標を考えます。今回タイトルを付けるならば、「最少手で史上最大限のドラマチック表現を」といった感じでしょうか。
最少手というとネガティブなイメージかもしれませんが、時間や人員が限られたなかで、『ヘブバン』の目指す「最上の、切なさを。」を形にするため、こういった裏目標を掲げました。
そして、それを達成するには、事前準備がなにより大切だと思っていて。というのも、単純にモーションキャプチャーを使えば達成できるというわけではなく、感情表現を追求する難度の高いチャレンジだったからです。 
なので、麻枝さんが書かれたシナリオが上がってきたら即精査をおこない、スタジオとアクターさんに共有。それと並行して絵コンテの発注を進め、提出いただいた絵コンテにも即フィードバックを繰り返し、ブラッシュアップしていただきました。コンテ会社さんのスピーディーなご対応の甲斐あって、アクターさんに余裕を持って絵コンテをお渡しできました。感謝しかございません。
社内ですと、モーションキャプチャーを撮る際に必要なデータを準備したり、チームで今後もモーションキャプチャーを使っていけるよう、最適な構造にしていただきました。それらは全てTechnical Artチームの方々が対応してくれました。
また、アクターさんの選定も今回はかなりこだわりましたね。今まで複数のタイトルでご一緒させていただいた吉川亜州香さんには真っ先にオファーをさせていただきました。エモーショナルなお芝居の魅力や殺陣などのアクション、現場で一緒に作品を作っていってくださる姿勢など、彼女しかいないと感じていたためです。
桜井理衣さんと加部アカネさんは、事務所の社長同席のもと、キャラクターの資料を見ながら一緒に議論しキャスティングさせていただきました。アクターさんはもちろん、事務所の方にも多大なるご協力をいただいたと思います。
これら社内外全て並行して進め、とにかくスピード感を意識してお芝居を作り込む時間を確保しました。

── 準備だけでも相当なスピード感やこだわりが感じられます。収録当日は、竹俣さん以外にどんな人が関わっていたのですか?

竹俣まずは当日、メイキング映像のためにカメラをずっと回してくれていた、私の上長です。上長のビデオカメラで、本番だけではなく、準備風景や演技指導の様子なども撮影していただきました。同時に、監修面でフォローも沢山していただき、とても助けられましたね。
あと、アニメーターの同僚も撮影中に手厚くサポートしてくれました。収録中、自分がアクターさんに身振り手振りで説明しているときも、横でそのシーンの資料をiPadでサッと出してくださり、本当に助かりました。
他にも、撮影や全体のフォローをいただいた方もいたり、とてもありがたかったです。またキャプチャースタジオのスタッフの方々には、スピーディーかつ柔軟に対応いただき、収録当日はとてもスムーズに進行できました。
このように、多くの方々に支えられ、感謝しかございません。また社内外問わず、チームとして連携でき、成果物はもちろん、チーミングの強化にもつながりました。
コロナの影響でスタジオ内は10人までと決まっていたため、当日はキャプチャースタッフ2名、アクター3名、Wright Flyer Studiosからは4名。さらにモーションキャプチャーに触れたことがないメンバーにも見てもらいたく、チームの皆がオンラインで見学できるように手配していただきました。
現場を見ることで、例えば、企画職であればキャラクター性等を考える際に、想像上でなく、アクターさんの実際の演技からもキャッチアップできたりと、普段と違った観点で得るものが多いと感じ、撮影中は丸一日オンラインで見学できるようにしました。

そのキャラクターに魂が宿っているか

── 竹俣さんとアクターの方々が一緒に、密にコミュニケーションをとりながら演技指導している姿が印象的でした。

竹俣限られた時間で最大限イメージや熱量を伝えるためには、ああいった演技指導は必要だと思うんです。アクターさんはその日のために役づくりや稽古に励まれていています。またスタジオを使える時間も限られているので、私が全力で演技指導をするのは、関係する方々への誠意だとも思っています。
イメージを言葉にしたり、身振り手振りで熱量を持って伝えたりするコミュニケーションが何より大事だと考えていて。特に、キャラクター性の深堀りが大事ですね。カットシーンはそのキャラクターたちのドラマを描きます。その裏には、資料などでは書かれないような微小な感情の揺らぎなども伝えないといけません。
例えば、今私は総柄の派手なシャツを着ているじゃないですか。この総柄の派手なシャツを着るにあたって、なぜこのインタビューに着てきたのかというひとつをとっても、その裏側にはストーリーがあるかもしれない。
単純にトレンドで着ているのかもしれない。インタビューでテンション上げるためお気に入りの服を選んだのかもしれない、こういうキャラに思われたいという願望かもしれない、はたまた別の理由かもしれない。

竹俣そのなかで例えば、内気でいつも地味な服ばかりを着ているキャラクターが急に派手なシャツを着てきたら、そこにきっとドラマがあるじゃないですか。自分を変えたい気持ちの現れかな、とか。もしくは、何か趣味嗜好が変わるほど大きな出来事があったのかな、とか。 
そういったキャラクターの心情を浮き彫りにし、ストーリーを盛り上げるために、私たちは日々、見えない部分も肉付けして、演出していきます。この“キャラクターのつくり込み”を、アクターさんも同じ位の粒度でやってくれます。収録当日、イメージをすり合わせ、さらに一緒に深掘りしていくことでお芝居に深みが増すんです。
正直、『ヘブバン』のモーションキャプチャ-では革新的なことは一切していません。至ってシンプルで、モーションキャプチャーの根源的な部分、生のお芝居の魅力やメリット、そこをとにかく最大化することに尽力しようと努めました。
このように、準備と演技指導を徹底した結果、あのようなコミュニケーションに行き着いたと思っています。

── だからこそあれだけ熱量を持って取り組んでいたんですね。

竹俣はい。最終的なアウトプットって生のアクターではなく、“その世界にいるキャラクター”ですよね。
モーションキャプチャーはあくまで、そのアウトプットにつながる途中の工程のひとつでしかないのです。ただ最終的な画になったとき、そのキャラクターに魂が宿っているか否か、それが顕著に出て、結果的にカットシーンのクオリティに直結するのを今まで何度も体験してきました。
もちろん、途中の工程だし、撮ったものがそのまま使われることはなく、アニメーターにより調整が入るということを、アクターさんも理解した上でお芝居を考え、一つひとつのテイクの刹那的な瞬間に全身全霊を込めていただきます。
泣くシーンなら実際に涙を流し、叫ぶシーンなら腹の底から叫ぶ。本気で芝居をするために、資料も隅から隅まで見てキャラクターをつくり込んでくれる。字コンテの段階でもキャラクターについて心情が分からなければ、すぐにご連絡いただく。そういった姿勢に私たちも応えたいです。
だからこそ、リスペクトの精神を持ち、全力でぶつかって演技指導をします。それが社内外問わず、一つのチームとして、良いクリエイティブを生む姿勢だと考えますし、全力で演じてくださるアクターさんやスタジオスタッフへの礼儀だと思います。

竹俣あと、今自分たちがつくっているものって、すごく良い作品なんだっていうのをアクターさんやスタジオスタッフの方々には感じてもらいたいんですよね。
今、最高の作品をみんなでつくっているんだという空気感を現場で醸成し、アクターさんやスタジオスタッフたちの安心感や高揚感をもつくっていく。「俺ら良いものつくっているなぁ」という感覚ですね。その空気感の醸成も、自分たちの仕事のクオリティアップにもつながります。
その結果、アクターさんから様々なアドリブを提案いただいたり、シナジーが生まれたりと、毎回とてもエモい収録になり、感慨深いです。

── 実際に、アクターさんからの提案によって生まれた表現、シーンはありますか?

竹俣ネタバレになるので詳細は話せませんが、あるキャラクターの立ち去り方をアクターさんが提案くださったのは印象的でした。実際は提案というより、本番のアドリブでニュアンスを変えていただいた感じです。
立ち去るところを引き止められ、また立ち去るシーンなのですが、そのときそのキャラクターは何を思っているか、それによって後ろ姿のあり方や、タイミングなどが大きく変わります。私が想定していたものより、感情の揺れ動きを生々しく表現し、素晴らしい立ち去り方だったので、即OKとさせていただきました。
このように、アクターさんは演技のプロなので、キャラクターの心情を考えながらたくさんご提案してくださいます。議論しながら表現をブラッシュアップできるのも、モーションキャプチャーの良いところです。そのおかげで、より感情に訴えるシーンを収録できます。

変化を恐れず、「感動体験」を追求していきたい

── 『へブバン』では今後も、モーションキャプチャーを使っていく予定はありますか?

竹俣その方針です。『へブバン』ではモーションキャプチャーの収録は今回が初めてでしたので、『へブバン』ならではのシチュエーションの検証用材料として、カットシーン以外も沢山収録しました。
今後はそれを踏まえて取捨選択し、より効率的でお芝居の魅力を更に引き上げられるよう、ブラッシュアップしていきたいです。

── モーションキャプチャーの活用を社内で広げるために、取り組んでいきたいことはありますか?

竹俣『へブバン』がモーションキャプチャーを使い、それが結果的に作品のコピーにある「最上の、切なさを。」を体現できたと思います。そういった事例をこういったインタビュー等を通じ、多くの方々に知っていただけると、Wright Flyer Studiosでモーションキャプチャーを取り入れる動きが積極的になるかもしれません。
また、へブバン以外のプロジェクトもモーションキャプチャーを使うことで、Wright Flyer Studiosが大事にしている感動体験を創出できれば、会社全体のブランディングにも繋げていけると思っています。ぜひ広めていきたいですね。
そうなれば、Wright Flyer Studiosのキャプチャースタジオも自ずと必要となってくるかと思います。さらに言えば、ゲームでの活用はもちろん、様々な使い道がモーションキャプチャーにはあるので、社内に留まらず、GREEグループ内や、様々な会社さんとも連携して面白いことも実現できるんじゃないかとも期待しています。

── 最後に、今回のモーションキャプチャーの取り組みで改めて感じたこと、今後大切にしたい想いを教えてください。

竹俣モーションキャプチャーってドラマや映画の撮影現場同様に、カチンコが鳴った瞬間はスタジオが世界一ドラマチックな瞬間になるんです。アクターが世界一輝いているんです。もちろん皆、作品の最終的なアウトプットに向けての収録ですが、全力で準備をして本番に臨みます。
私たちもそれに応えるように、演技指導や準備を徹底的におこなう。モバイルゲームでここまで感情表現にこだわっているのは稀で、『へブバン』ならではの取り組みだと思います。今後もアクターさんやスタジオスタッフ、プロジェクトの皆で一丸となり、「最上の、切なさを。」を形にしていきたいです。
今回モーションキャプチャーの経験を通じて、Wright Flyer Studiosは、良い作品をつくるために、フラットに様々な意見を吸い上げ、最適解を見極め、あらゆる技術を活かしていける良い会社だなと再認識しました。
また既存の文化にとらわれず、変化を恐れない会社という側面もあります。だって、入社2日目の私が提案したことでも、モーションキャプチャーを活用することに価値を見出してくれて、バーチャルカメラなど様々な検証も「良いね。やってみて」と背中を押してもらえたんですから。
あと凝り固まっていないというか、柔軟性と伸びしろがいくらでもあり、無限の可能性を秘めた会社ですね。
私たちはゲームをつくっているのだから、エンタメのプロとして、お客様に永続的に楽しんでもらうために、売り上げなど数値的な部分も常に意識しなければなりません。でもWright Flyer Studiosは、「感動体験」など定性的な部分、数値で表しにくいものを全員が四苦八苦しながらも真面目に探究しています。
楽しんでもらった先にある、もっともっと深い部分。“心に残って、その人の人生に何かしら影響を与えるような作品づくり”とも言えるかもしれません。それを自分は追求したいですし、Wright Flyer Studiosならその姿勢は今後もブレることはないと確信しています。
そして、こういったこだわりを大事にし、一緒に楽しみながら戦ってくれる仲間をもっともっと増やしたいとも思っています。

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