「言語や地域が違っても、同じように感動できるゲームを」。プロダクトの海外展開を支えるWorldWide Operationsグループの軌跡

ライトフライヤースタジオでは、2017年にリリースした『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか~メモリア・フレーゼ~』(以下、『ダンメモ』)『アナザーエデン 時空を超える猫』(以下、『アナデン』)などのグローバル配信を皮切りに、積極的に海外展開をおこなっています。
これまで海外向けに15タイトル(漫画アプリ1つ、SNS関連1つ含む)を手がけ、9言語・72カ国以上に提供するまでになりました。(2022年4月時点)

ゲームそのものの開発だけではない活動も知っていただくために、今回は、海外展開を牽引するStudio本部 WorldWide Operations(以下、WWO)グループの2名にインタビュー。組織誕生のきっかけや、海外展開をスムーズに実施できるようになるまでの背景を聞きました。

長谷川 彦
Studio本部 / WorldWide Operations グループ シニアマネージャー

QA専門会社でシステム、パッケージソフトの品質保証業務を経て、2012年に入社。海外CS業務に携わった後、ネイティブゲーム事業立ち上げからQAを担当。現在はライトフライヤースタジオにて海外展開をおこなうゲームに付随するテキストの翻訳や、各規約作成、カルチャテスト、ユーザテストの実施対応の他、採用、外部ベンダへの委託調整など、ローカライズ業務全般及びPM業務を担当。

松井 望
Studio本部 / WorldWide Operations グループ / Project Management チーム マネージャー

学生時代よりベンチャー企業にてエンジニア経験を積み、編曲サービスの開発等に10年ほど従事。2013年に入社し、エンジニアからディレクターに転向。ユーザー獲得業務にて、アメリカや韓国など海外プラットフォームの運営を経て、2016年にライトフライヤースタジオへジョインし、ゲームの海外展開チームの立ち上げに参画。現在はプロダクトの海外展開における開発進行管理及びPM業務などをおこなう。

クオリティを最優先した組織編成

── 海外展開の主軸となる、Studio本部 WWOグループの役割を教えてください。

長谷川彦(以下、長谷川)WWOグループは海外展開をする際のローカライズ、そしてそれに付帯する業務全般を担当しています。グループは、大きく3つのチームで成り立ちます。

  • Localizationチーム(翻訳の実務)
  • Project Managementチーム(海外版のスケジュール管理、プロダクトチームとの橋渡しなど)
  • Game Publishingチーム(海外リリース時に必要な法律・慣習の確認、規約の調整、承認会議の調整などパブリッシング全般)

PMチームが軸となってプロダクト側とコミュニケーションを取り、LocalizationチームとGame Publishingチームがそれぞれの専門分野を担っているようなイメージです。

── 3つの分野から成り立っているのですね。では、ローカライズ組織立ち上げの経緯やきっかけを教えてください。

長谷川2015年〜2016年にゲームの海外展開を視野に入れることになり、正式にチームの立ち上げがスタートしました。
当時のゲーム業界は、海外進出の必要性を感じる人も出はじめていました。でも、実際に行動に移す会社は少なく、海外進出をどのようにスタートするか試行錯誤している段階。ライトフライヤースタジオは早いタイミングで舵を切ったんですよ。

松井 望(以下、松井)そのときのチーム構成は、今のようではなかったですよね。翻訳者を束ねるディレクターや、PMチームなどもおらず、各プロダクトに翻訳者がアサインされていました。
つまり、翻訳者に依頼をする流れは外注に近いようなかたちだったんです。だから、次のイベントに必要な翻訳の進捗や、イレギュラーな依頼の優先順位なども整える必要があり、その辺をすべて巻き取る“PM”という役割が新設されて。

長谷川そうですね。そしてLocalizationチームや、それを取り仕切るローカライズディレクター、Game Publishingチームも集まってWWOグループとなりました。

── 大がかりな組織編成だったと思いますが、そもそも外部委託は検討しなかったのでしょうか?

長谷川たしかに他のゲーム会社さんは外部委託の比率が高いかもしれませんが、ライトフライヤースタジオは初めから内製にこだわっていました。
実は、海外展開の初期プロダクト『ダンメモ』と『アナデン』のローカライズがはじまるころ、どちらのプロデューサーも「翻訳の品質を重視したい」と話していたんです。
WWOグループとして翻訳の品質をどのように担保するか。そう考えたとき、もちろん外部にお願いすることも思い浮かびましたが、納品物をゲームのイメージやこだわりに合わせて見直したり、チェックしたりするコストが大幅にかかると考え、それはトータルで見ると本当に効率的なのかと。
であれば、各言語のネイティブの方にライトフライヤースタジオへ来ていただき、隣に原文である日本語の意味合いが分かる開発メンバーや、シナリオを書くメンバーがいる状況の方が圧倒的に翻訳しやすくなると考えました。翻訳が難しいところはその場で随時確認できますからね。
またWWOグループとして、翻訳に関しては「最後まで責任を持ってお客さまに届けたい」と思っていました。
翻訳に間違いがあった場合、お客さまのゲーム体験を損ねてしまう可能性もある。そうならないために、誤表記・誤翻訳への迅速な対応や、市場の情勢や変化に即応する必要があります。この点も内製化を進めた理由のひとつになります。
このような経緯があり、基本的にはライトフライヤースタジオで翻訳するかたちを取るようになりました。
とはいえ、1つのゲームの翻訳ボリュームは膨大です。シナリオのコアになるところ、キャラクターの細かな説明が入るところなど、内部での翻訳を優先する部分との切り分けをプランナーとともにおこない、一部だけ外部に翻訳してもらっています。
試行錯誤しながら、効率化と品質の担保をおこなう方法を探り、軌道に乗ってきたのは立ち上げから1、2年経ったころでした。

── これまでを振り返って、苦労した点があれば教えてください。

松井翻訳者を確保するところは苦労しました。特に、スペイン語やタイ語の翻訳者の確保には時間がかかり、悩みましたね。

長谷川そうなんです。立ち上げ当時は色々ありました。私はお付き合いのあった各国の大使館に出向き、「翻訳者を探しているので紹介してください」と回ったり、いくつかの翻訳会社に「ライトフライヤースタジオに来て仕事をしてくださる方はいませんか」と交渉したり。体当たりに近いようなことをしていましたね(笑)。
でも、みなさん丁寧に話を聞いてくださって助かりました。大使館だと、その国に対しての利益を一緒に考えることや、トレードオフのようなパターンを検討することもあり…。大変ではありつつも、嬉しいことに何名かご縁がありました。

松井あと、言語の特性によって、翻訳時に大変な場面が多かった印象です。
例えば、韓国語や中国語(繁体字)の翻訳者からは質問が出ないところに、スペイン語やフランス語、ドイツ語の方は疑問を持つことがある。前者では主語の性別に関わらず言葉尻が変わらないケースが多いですが、後者の言語などの場合、主語が男性か女性か、さらに中性かによって表現が変わります。
だから、性別が不確かなキャラクターの翻訳時にはよく質問が出ました。その際は、開発と話をしたり、性別についてまとめてあるデータを確認したりして、日本のチームと相談しながら翻訳に困らない仕様に変更したこともあります。

── 他職種との関わりも多そうですね。業務上、どのようなコミュニケーションを取っているのでしょうか?

長谷川海外展開をおこなうとなると、基本は各プロダクトのディレクターなどからお声がけがあり、PMやローカライズディレクターと一緒にキックオフMTGを実施しています。シナリオの中身に関しては一緒に細かな調整をすることがよくあります。
『アナデン』でひとつ例を出すと、メインシナリオ担当の加藤正人さんと、翻訳の品質を追求するためのお話をしたことは印象的です。

── 加藤さんとは当時どのような話をしたのでしょうか?

長谷川「ここはHeではなくてTheyの方が合っているよ」「特に理解してほしいところを英語で表すとこうなんだよね」といったことを教えてくれたり、「このキャラクターの名前の由来は…」という、多くの方に知られていない詳細まで話してくれたりしました。
「どうせやるからにはしっかり翻訳しよう」というスタンスがすごく伝わってきて、ライトフライヤースタジオはチームの隔たりなく関わりを持ってくださる方が多いなと。それに応えられるよう、キャラクター設定やストーリーのニュアンスを確認しながら一緒に進めました。そういう意味では、他職種とのコミュニケーションはたしかに活発だと思います。

松井自分が関わる人は、シナリオ担当の方もそうですが、イベントのガチャやキャラクターの設定をしているプランナーが多いですね。イベントのデータを翻訳するときに分からない情報は逐一聞いています。
グローバル同時配信であれば、日本語のプロダクトのプランナーの他、新しい画面や全体の仕様をつくっていただく都合上、エンジニアも含めてキックオフMTGをしています。
画面のラフができあがってからは、「このレイアウトは日本語なら問題ないけど、英語だと文字が溢れてしまいそう」「毎回、日本語と英語でレイアウトの調整が必要になってしまう」といった懸念点を、UIデザイナーも交えて調整しているのです。

面白さや感動まで伝わるのが、真のローカライズ

── ライトフライヤースタジオならではの、海外展開のポイントや特徴を教えてください。

長谷川一番は、翻訳の品質にこだわっていることです。直近にリリースされたゲームに対する海外のレビューを見たところ、ポイントも高く、評価してくださっている方が多くて嬉しかったです。
翻訳そのものに言及しているコメントはありませんが、そのゲーム自体を良いと思ってくれているということは、現地の言葉にしっかりとローカライズできている証拠だろうと。ゲームの面白さをちゃんと伝えることもローカライズの役割なので、コメント等をもとにした品質のチェックも欠かせません。

松井たしかに今後求められるのは品質の高さですよね。コンシューマー、スマホゲームに限らず、没入できる、その世界に入り込めるクオリティであることが基準になってくるかなと。
翻訳時にも、品質はすごく大事にしています。国や地域、そして各人の多様性があるなかでストーリーをどのように伝えるべきか、その正解を考える難しさはあります。でもただその言葉を翻訳するのではなく、日本語のゲームで感動できる部分は、翻訳したものでも同じように感動できなければ価値が下がる。そういった側面も意識しながら品質に重きを置いていますね。

長谷川他に、例えば『アナデン』だと新キャラクターを海外先行で出すこともありました。すべてを日本先行にすると、海外の方はネタバレされたように感じる方もいます。海外のみなさんにも、新しいイベントやキャラクターを楽しみにする気持ちを感じてほしいので、そういった工夫もおこなっています。
また海外版で、現地の言語だけではなく日本語を選択できる点もひとつのポイントです。

── 海外版では、日本語の音声やテキストをそのまま楽しむこともできるんですか?

そうです。だから例えばアメリカにいても、日本語のまま遊べます。実は海外の方々のなかには、日本語で楽しみたい方が一定数います。日本が大好きで、日本のカルチャーを積極的に取り入れている方、そしてキャラクターの声優さんが好きな方もいる。

そうしたニーズに応えられるよう、プロダクトのみなさんに協力してもらいました。細かな部分ですが、他社のゲームでもあまりない試みだと思います。

多様性を踏まえたローカライズを目指して

── WWO立ち上げ初期と比較して、前進したと感じる点を教えてください。

松井先述したように、日本語を基準につくっているときには気付かない、レイアウトや翻訳上の問題が、今は少しずつ改善されています。これは、プロダクトのキックオフMTGで、過去のゲームで起きた問題を共有しているからです。あらかじめ全員が認知しておけば、これから起きそうなことも想定し、事前に防げますよね。
あとは、グローバル同時配信のフローも整ってきたので、イベントのキックオフのタイミングからWWOグループが参入できるようになりました。つまり、“知らない間にグローバル同時配信が決まっていて、慌てて翻訳をする”というような状況はほとんどありません。
このように、いくつかのプロダクトの海外展開を経験したことで、UIデザイナーやプランナーをはじめとする他の職種の方も、「これは英語になると難しいですよね」と気付くことも増えてきて。ライトフライヤースタジオのなかで、海外配信のノウハウが浸透してきたと感じています。

── 問題をクリアしてきたことで、ライトフライヤースタジオ全体で海外展開の意識が根付いてきたんですね。最後に、今後どのような方と一緒にゲーム業界を盛り上げたいですか?また、ライトフライヤースタジオで働く魅力についても教えてください。

松井ライトフライヤースタジオでは、ゲームを楽しんでいただくために全力です。他のどのゲームにもないような新しいものを目指して、作品に触れた方に驚いてもらうしかけなども考えています。
つまり、常に新しいこと、常に一流であることを軸にしているので、他の良いものを取り込むだけでは足りないと思っています。
「自分にしかできないもの」をつくるためにチャレンジし続ける方と一緒に働けたら、互いに刺激されて、今よりもっと良いものを生み出せるでしょう。そういう方にぜひライトフライヤースタジオに来ていただきたいです。

長谷川ビジネスで使う意味合いとは少し違うかもしれませんが、ローカライズにはダイバーシティの区分が重要だと思っています。
ゲームをプレイする方々にどういうものが受け入れられるのか。そして、我々がつくった言葉やシーンをどのように伝えるかを、丁寧に考える。そこを一番大事にしています。だから、プロダクト側の意図を理解しながらベストな表現方法を提案し調整するのが、ローカライズの仕事だと思うんです。“ただ単に言葉を翻訳すること”とは意味が違う。
ひと昔前であれば、「グローバルな人材にぜひ来てほしい」と表現されていたと思いますが、今はそれだけでは難しい。多様性のなかにある、もっと細かな価値観を持つ方々に対して、ゲームの楽しさやストーリーをどう伝えるか。そこを考えてくださる方には、大きなやりがいを保証できます。
だって、世界各国にゲームを届けるための方法を、自分で考えてかたちにできるんですよ。来てくれたら、きっと楽しく仕事できるんじゃないかと思います。

ライトフライヤースタジオでは一緒に働く仲間を募集しています

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