『消滅都市』『アナザーエデン』を手がけたWFS、新代表・柳原が話すチームのビジョン

私たちWright Flyer Studios(以下、WFS)は、2014年2月に設立されたスマホ向けアプリを開発するコンテンツスタジオです。

代表作には、全世界で900万ダウンロードを記録したドラマアクションRPG『消滅都市』や、シングルプレイRPG『アナザーエデン 時空を越える猫』があり、設立以来、約20タイトルのモバイル向けゲームをリリースしています。

設立後はIPタイトルも手がけており、2017年には『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 〜メモリア・フレーゼ〜』を開発。

私たちWFSは2021年10月に役員人事を行ない、新体制で事業に取り組もうとしています。今回は代表に就任したばかりの柳原陽太にWFSのビジョンやカルチャーをインタビューしました。

柳原 陽太
株式会社WFS 代表取締役社長

2012年グリー新卒入社。
データ分析や経営企画を経験。その後、Wright Flyer Studiosにて開発ディレクター・Studio2部部長・Studio本部長を務める。2021年10月1日、代表取締役社長へ就任。

ゲームが僕の人生を変えてくれた、だからゲームに恩返しがしたい

── WFSはグリーグループの一角として様々なモバイルゲームをリリースしています。はじめに、どのようなスタンスでゲームを作っているか聞かせてください。

柳原陽太(以下、柳原)WFSが目指しているのは「自分たちにしか作れないコンテンツを生み出し、世界中に届け、人々の毎日をよりよくすること」です。
ゲームは誰かの人生をよりよく変えてくれる力を持っています。開発したタイトルがきっかけで結婚されたユーザーがいますし、「ストーリーに触れて人生観が変わりました」とお手紙をいただくこともありました。自社スタッフからは「ゲームをプレイするために、子どもたちが漢字や算数の勉強を頑張っている」と話を聞くこともあります。
僕も幼い頃はゲームに救われてきました。だから、恩返しではないですけど、ゲームを通して誰かの毎日をよりよく変えていきたい。これは個人的な希望ですが、作ったゲームのテストプレイをしながら最後の時を迎えたいと思っていて(笑)。それだけゲームに人生をかける覚悟を持って仕事をしています。

── すごい覚悟ですね! なぜ柳原さんはそこまで熱意を持てるのでしょうか?

柳原原体験から話すと、僕はイギリス出身で、2012年にグリーに入社するまでずっとイギリスで暮らしていたんです。最初に触れたゲームソフトが日本語版で、当時の僕は漢字が読めなかったので途中で挫折してしまったんです。けれど続きが気になるから、両親に頼んで現地の日本語学校に通わせてもらいました。

── なるほど、ストーリーを追うために、学校で日本語を学んだと。

柳原そうなんですよ。両親もゲームを与えれば自発的に日本文化を学んでくれると思ったのか、その後も様々なソフトをプレゼントしてくれました。当時は兄と一緒に色んなタイトルを遊びましたね。楽しむだけじゃなく、ゲームに救ってもらえたこともありました。

── 何があったのでしょうか?

柳原イギリスではアジア人は珍しく、悪気はなくとも差別的に扱われることがあります。僕もからかわれることが多く、傷ついていました。
状況を変えてくれたのがゲームでした。当時、イギリスではやっていたゲームの続編を向こうで発売するより早く手に入れていました。「それなに!? お前すごいじゃん」と一目置かれるようになり、クラスでイケてなかった僕がいきなりヒーローになることができたんです。
ゲームを通じて、全く違う文化の人と分かり合えることができた経験は、幼い僕にはとても強烈な体験でした。
その後も思春期になるにつれて、「自分は何者なんだろう」と自問自答するようになりました。僕は純粋な日本人ではないし、イギリス人でもない。「アイデンティティはどこにあるのだろう。どこからも受け入れられてないのでは?」と考えていました。
この苦しみから救ってくれたのもゲームでした。当時遊んでいたタイトルは、主人公が自分のアイデンティティと向き合うストーリーで、物語に没頭する中で「自分は日本人でもイギリス人でもないけど、このままでいいんじゃないか」と思えました。
当時はネットゲームにも触れていて、オンラインでは自分の出自は関係ないんですよね。そうした体験があったので、ゲームが大好きになりましたし、「僕のようにゲームに救われる人は多いんじゃないか」と思うようになりました。

── ということは、その後はゲーム業界を目指したのでしょうか?

柳原いえ、その後もゲームを遊んでいましたが、大学は得意だった数学を専攻しました。でも、大学に入学してみると昼休みにランチを取りながら数学の本を読むような人達ばかりで、「それくらい没頭できるものってなんだろう?」と考えたらやっぱりゲームだったんです。
ちょうど卒業間近になってボストンの就活フェアに行ったらグリーが出展していまして。当時のグリーはグローバル市場を目指して、データを活用して事業成長を目指すフェーズに入っていました。自分が持つデータサイエンスの力が活かせるし、コンテンツにも触れられる。どうせ就職するなら自分の好きな業界で仕事をしたいと思い、グリーに応募しました。

時にはロジックよりエモーションを優先することも、ゲームへの情熱を持った職人集団

── グリーに入社されてからはどのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか?

柳原グリーには2012年に入社しまして、はじめはデータアナリスト、次に経営企画を経て、WFSに移籍。ゲームプランナー、プロデューサーなど遍歴して、2021年10月に代表に就任しました。

── 色々なポジションを遍歴されていますね。なぜ様々な職務を経験できたのでしょうか?

柳原グリーは挑戦に寛容な会社なんです。僕はアナリストとして入社して、WFSには数値分析担当者として関わりました。そのうちにテレビCMを手掛けることになり、投資回収のために必要な数値改善のシミュレーションをしたら、ディレクターの下田が「一緒に改善しませんか?」と誘ってくれて。気がついたら開発に参加することになり、序盤のゲーム体験を改善したり、コンテンツが足りないところのシナリオを書いたり、と制作サイドに移行していきました。

── かなり柔軟な人事ですね。やはりWFSもフラットなカルチャーなのでしょうか?

柳原そうですね、すごくフラットです。WFSのカルチャーは、言葉は悪いですが「頭の良いバカの集まり」だと思います。データから導き出したKPIやロジックなど客観的事実を参照しながら、主観的な制作へのこだわりは絶対に譲らない。相反する要素が絶妙なバランスで共存しているんです。
先日も新規タイトルのアイコンでABテストをしまして、事前調査で数値的には評価がよかったアイコンAよりも、「アイコンBの方が何かを変えてくれる力強さがある!」と本部長・担当プロデューサー・マーケティングプロデューサーが長時間議論しました。
数字で判断するならAですが、エモーションを重視するならB以外あり得ない。コンテンツを理解して愛しているからこそ、時にはロジックやデータを超えて判断できる。マーケティングと制作サイドの気持ちを理解したうえで議論できるので、すごく良い組織だと思っています。

── いいエピソードですね。ほかにはカルチャーと呼べるものはありますか?

柳原ここ数年で目指してきたのは「3R」です。
「Respect:相手を尊重して分かり合う」「Retry:何度でも挑戦する」「Reflect:内省を得てより高みへ」。三つの「R」は社内に根付いてきましたので、そろそろ次のステップに挑戦できるのでは、と考えています。

次のステップに向け、「挑戦」と「テクノロジーの進歩」を両立したい

── ちょうど次のステップのお話になったので、WFSのビジョンを教えてもらえますか? 加えて、柳原さんも代表になったばかりですし、今後チームをどう変えていきたいのか、構想を聞かせてください。

柳原組織としてのビジョンは、「新しい驚きに挑戦し続けられる環境を用意すること」と「テクノロジーを向上し続けること」です。
WFSは新しい驚きを与えることに真摯に向き合ってきた会社です。『アナザーエデン』のように、モバイルゲームにも関わらず街中を歩ける本格的RPGをつくったり、2Dタイトルに3Dのカットインを入れてアニメのような演出を入れたり、今までにないもの、驚きを与えられるものを生み出すことが僕らのアイデンティティだと思います。
だから、これからも挑戦できる組織にしていきたい。挑戦し続ければ新しいアイデアや発想が生まれますし、アイデアを形にするためにはテクノロジーが不可欠です。ものを作れば作るほど、テクノロジーが改良され、挑戦すればするほどノウハウが積み上がっていきます。WFSは「こんなこと思いついても普通はやらないよね」という挑戦を繰り返してきましたし、これからも限界を越え続けていきたいですね。

── 素敵な構想ですが、チームが大きくなるにつれてトップダウン化が進み、「挑戦ができる組織づくり」は実現しづらくなってしまうことがあります。この課題をどのように解決していこうとしているのでしょうか?

柳原おっしゃる通りで、WFSも規模感が大きくなってきたので、油断すると「ディレクターやプロデューサーが決めたものを頑張って作りましょう」と効率を求めるようになってしまいます。だからこそ、「このシナリオは、キャラクターは、演出は、本当にお客さんが喜んでくれるんだっけ?」と自問自答し続けられるチームにしていきたいですね。
精神論的になってしまいますが、スタッフ一人ひとりが誇りと責任を持って、ユーザーと向き合い続けていれば「挑戦できる組織づくり」は実現できると思います。
いまWFSにいるスタッフは、みんなゲームがめちゃくちゃ好きですし、ユーザーに喜んでもらうことが大好きです。「全力で挑戦したら、仲間が必ず次に繋げてくれる」と思って仕事ができれば、難易度の高い挑戦を受け入れる文化が形作られていくのではと考えています。

── 「この人が一緒に頑張ってくれるなら、自分も頑張ろう」と信頼関係が築けている状態ですね。

柳原制作において、信頼関係ってすごく大切な要素なんです。ゲーム制作に納期はありますが、作り込みに終わりはありません。ユーザーの期待を越えるためには、時に非効率になることもあります。そんな時、誰かが苦しい思いをするのではなく、みんなで支え合えるチームであれたら、と思っています。
そのために社会的責任も果たしますし、スタッフやクリエイターの夢を叶える基盤を積み上げ続けていきたい。僕が代表に就任してはじめにやるべきことは、ひとりひとりが自分たちの仕事を誇りに思い、次に繋げる責任を持てる環境づくりです。

ゲームショウで歓声があがる、ファンから次の作品が期待されるスタジオに

── WFSはグリーグループの一角ですが、グループとのシナジーは考えていますか?

柳原グループにおいては、ゲーム事業のリードプレイヤーであり続けたいですね。
WFSは「ものづくり」が好きで、挑戦好きな人が集まっています。むやみに規模を大きくして、自分たちだけで2〜30本タイトルを作るよりは、圧倒的な新しい驚きを持つ、最高の1本を作りたい。WFSの開発力や表現力をグループに還元することで、グループとしてより多くのゲームを作れるようにしていきたい。
そして、グループ全体で動けばできることも増えていきます。たとえば、グリーエンターテインメント株式会社ではアニメ製作委員会への出資も行っており、IPの立ち上げフェーズにも関与している。グループでIPの立ち上げから拡大、収益化までの一連のプロセスに強みを持ち、いずれはIPを保有する企業様に「グリーさんに作品を預ければ世界中で大ヒットになるぞ!」と言ってもらえるようになりたいです。

── 最後に、今後の意気込みをお願いします!

柳原先ほど述べたようにやりたいことはたくさんありますが、最終的にはユーザーさんから「WFSのゲームなら期待できる!」と信頼されるスタジオになりたいです。たとえば、ゲームショウで新作発表のティザームービーが流れて、最後に「Produced by WFS」と表示されたときに歓声が湧いたら、とても嬉しいです。
自社タイトルがマルチプラットフォームで世界展開されて、「WFSが次につくるオリジナル作品はどんなものなんだろう?」と期待される状態をつくりたい。乗り越えるべきものは多いですが、必ずや実現していきます。